画像や文章、動画といったさまざまなコンテンツを生み出す「生成AI」。
「生成AI」という言葉を見たり聞いたりしたことがある人も多いと思いますが、アニメ業界においてどのように活用されているのか、どのようなメリット・デメリットをもたらすかを説明できる人は少ないのでは?
人が作り出すような画像や映像を自動で生成するAIは、業務効率化やアイデア出しを目的に、多くの業界・企業で活用が進んでおり、アニメ業界においては、キャラクターデザインや背景描画などに生成AIを使用した作品も発表されています。
今回の記事では、今話題の生成AIの種類や使い方を解説しながら、アニメ業界での活用事例を紹介します。また、生成AIをアニメ制作に活用する際に、必ず押さえておきたいポイント・注意点についてもお伝えします。
記事の概要
アニメ業界に興味のある方へ
今話題の生成AIとは? 生成AIの種類を解説
生成AIとは、さまざまなコンテンツを生み出す人口知能の一種で、ジェネレーティブAIとも呼ばれます。
従来のAIとの違いは、学習したデータをもとに、新たなコンテンツを生成できる点にあります。
これまでのAIは、学習済みのデータの中から適切な回答を探して提示する、いわば「決められた行為を自動化する」ために使われていましたが、生成AIは、AI自身が自ら答えを探して学習し続け、文書や画像、動画など多岐にわたるコンテンツを作り出すことができます。
そのため、専門的な知識・スキルのない人でも、生成AIを利用するだけで比較的容易にコンテンツを生み出すことができます。「Chat(チャット)GPT」を利用したことがある人も多いと思いますが、これはテキストを生成するAIによるサービスです。生成AIの発展により、これまでのテキスト生成だけでなく、画像や映像を生成するAIも登場しています。ここでは代表的な生成AIの種類を紹介します。
テキスト生成AI
テキストでAIへの質問や要望(プロンプト)を入力すると、AIがテキストの内容を解析して、適切な回答を自動で生成します。
画像生成AI
テキスト生成AIのようにテキストで指示を記述したり、学習元となる画像を入力したりすることで、新たな画像を生成します。
動画生成AI
生成したい動画のイメージをテキストや画像を使って入力することで、そのイメージに近い動画、音声などを生成します。
動画生成AIは、テキスト生成AIや動画生成AI以上に高度な処理が求められるため、現在は比較的短い動画を生成できる程度になっています。しかしながら、技術が進歩すれば、さらに長尺の動画を生成することも可能になると考えられており、さまざまなビジネスシーンでの活用が期待されています。
生成AIでアニメーションは作れる?
生成AIの発展により、アニメーション動画の自動生成も可能になっています。動画制作AIを使ったアニメーションは「AIアニメーション」と呼ばれることもあります。
動画制作に関する知識がなくても、イラストや画像をアップロードするだけで、簡単に3Dアニメーションを生成できるツールもあります。ツールによっては、カメラの動きや動きの強弱などを設定したり、動画のテイストを変換したりすることも可能です。
AIアニメーションの最大のメリットは、制作業務の効率化やアイデア出し、制作コストを抑えられること。
本格的なアニメーション動画を制作するには、スタッフの人数も必要ですし、莫大な費用と時間がかかります。日本のアニメに対する需要は年々高まっていますが、その一方でアニメーターなどの作り手は不足しており、仕事が回らなくなっている制作現場も少なくありません。昨今の働き方改革に示されるように、制作者が働きやすい環境を実現するため、作業の負担を軽減するために、生成AIの活用が進められています。
生成AIでアニメーションを作ることは可能ですが、クオリティという面で考えると、アニメーターによって描かれるアニメーションにはまだまだ及びません。動きの繊細さや人間の感情、性格といった創造性が求められる表現は、アニメーターだからこそ描けるもの。生成AIで再現するのは難しいでしょう。
アニメ業界に興味のある方へ
生成AIはアニメ業界にも広がっている?
現在、多くのアニメ制作現場で生成AIの活用が積極的に進められています。
2023年12月に実施された政府主催の「AI時代の知的財産権検討会」では、ゲーム開発会社がゲーム開発において生成AIを活用していることを明らかにしました。同社の活用方法としては、基礎データの作成やアイデア出し、クオリティアップです。
例えば、画像生成AIでさまざまなパターンの材質を指定して、イメージ案画像を生成したり、AIが生成した背景美術を世界観の参考資料としたり、大観衆や建物群の背景素材をAIで生成し、ゲームのキャラクターと合成することでイメージイラストを作成しています。
ほかにも、ゲームには欠かせないキャラクターの設定やクエストのアイデア出しにおいても、生成AIを活用して参考資料にしています。
これらの使い方を見ていると、生成AIが作ったものをそのまま利用するのではなく、頭の中で考えている情報やイメージを生成AIに与えて、作品のアイデアをもらうような使い方をしているのがわかります。AIが生成した複数の画像の中から、一番希望に近いものを選んで調整を行っていくという活用方法は、アニメーターの制作の負担を減らすことができますし、人間にしかできない、より質を上げるための作業に時間を使えるようになるでしょう。
生成AIで変わるアニメーションの未来
生成AIの登場によって、アニメーターの作業の負担が軽減され、より表現力や想像力を発揮できるようになるのは日本のアニメ業界にとっても望ましいことです。しかしながら、不用意な活用は大きなリスクをもたらすことを知っておかなければなりません。
AIの活用で問題になっているのは、著作権侵害です。生成AIは膨大なデータを読み込んで特徴を理解し、イメージに近いコンテンツを生成することができますが、既存の著作物と似たコンテンツを共有サイトなどに投稿すると、著作権侵害にあたる恐れがあります。
著作権とは、アニメやイラストなどを創造した人物に対して、その創造物を保護するために与えられる権利のこと。生成AIによって作成されたコンテンツが、
- 既存のキャラクターと特徴が似ている(類似性)
- 既存のキャラクターを知っていた(依拠性)
- 商業目的で利用している(商業利用の有無)
- 生成段階でプロンプトにそのキャラクター名を入力していた(プロンプトの内容)
という場合には著作権侵害となる可能性があり、著作権者から損害賠償を請求されたり、刑事責任を問われたりするケースもあります。
この背景には、生成AIの機械学習において、既存のイラストやアニメが無断で利用されているという実態があります。AIによる無断学習を巡って、イラストレーターの方々がSNSなどでイラストを投稿する際に「イラストのAI学習は一切禁止とします」などの注意書きを記載していますが、インターネット上に公開している以上、利用を制限することは難しいでしょう。
生成AIの活用においては、その発展のスピードに対して、法律や社会基盤の整備が追いついていないという現状があります。そのため、むやみにAIを活用するのは好ましくありません。とはいえ、生成AIを活用することで、アニメーターの制作環境が改善されたり、クリエーターならではの表現力や想像力が必要な作業に時間を割けたりするというメリットがあるのも事実です。
また、生成AIは高度になっているものの、その出力(コンテンツ)は与えられた指示内容(プロンプト)に強く依存することから、生成AIが理解しやすい、最適な質問や指示を出すというプロンプト作成のスキルはより重要になっていくと考えられます。
まとめ
今回は、今話題の生成AIの種類や使い方を解説しながら、アニメ業界での活用事例について解説してきました。
イラストや動画などの新たなコンテンツを生み出す生成AIは、業務の効率化やアイデア出しなど、さまざまなメリットをもたらすことから、多くのアニメ制作現場で使われています。
その一方で、生成AIの活用には、さまざまなリスクがあることを知っておかなければなりません。学生のうちから生成AIとの付き合い方や活用方法について考えておくことは、今後アニメ制作の現場で活躍する上で大きなメリットになるはずです。
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